2017/3/5

「永遠の0」読書感想文

遅ればせながら、百田尚樹「永遠の0」を読みました。

読む前に予想していたような軍国主義礼賛の小説ではありませんでした。戦史考証もそれなりになされていました。

しかし、本質的なイシューを外していました。また、論理に飛躍がある点があり、さらに、検証が足りない箇所がありました。

戦史考証がそれなりになされているだけに説得力があり、特に本質的イシューを飛ばしていることに気付かない読者が生じかねない点に危うさを感じました。

まず、戦史考証です。たとえば、多くの兵士が餓死したガダルカナル戦に関しては、大本営の戦略的失敗である「戦力の逐次投入」について触れられています。また、その背景にある、海軍のハンモックナンバー(海軍兵学校の卒業席次)に象徴される、軍隊の官僚組織化が指摘されています。ミッドウェイ海戦の失敗についても、海軍の官僚組織化による無能な指揮官の采配が主因と主張しています。

これらは、「失敗の本質」等の本を読めば明らかではあるのですが、初めてこうしたファクトに触れる読者にとっては有益な情報です。

しかしながら、第二次大戦の本質的イシューを外しています。それは、「なぜ日本は戦争を初めたのか?」です。ガダルカナルやミッドウェイ等の緒戦で勝利を収めても、あの戦争で日本に勝利はありませんでした。したがって、本質的に問われるべきは、戦争を開始しない選択肢の模索なのですが、そこに目を瞑ったままで、戦争(=殺し合い)の描写に終始しています。

また、戦争責任はマスメディアだけに負わせています。たしかに、戦前のメディアが戦争を煽ったことは事実ですが、それ以前には言論弾圧があり、また、軍部、財閥、官僚、天皇等の責任との比較論抜きにメディアだけをターゲットにするのは短絡的に過ぎます。

さらに、本書の最初の方に出てくる問いに「特攻隊員とテロリストでは何が違うのか?」というものがあるのですが、これに対する明確な回答は、攻撃の対象者が戦闘員なのか一般市民なのか、という位でした。あとは、なんとなく「テロリスト=悪」を前提として、悲劇的であった特攻隊員を善としています。しかし、自爆テロの実行犯にも実際には様々な背景がある筈ですので、特攻隊員と比較するのであれば、彼らについて精査した上で書かなければ均衡を欠きます。

ということで、一部説得的な箇所を持つ書籍だけに、今後の日本の、特に安全保障を考える上で、読み解きに注意が必要な本だと感じました。