2012/7/25

「義務教育」の違和感

日本では、憲法によって、親に「義務教育を受けさせる義務」が課されています(憲法26条2項)。これを受けて、学校教育法は、17条で親が小中学校に子供を通わせる義務を規定し、144条で督促に従わない場合の罰金刑(上限10万円)を規定しています(学校教育法)。

諸外国においても、義務教育は定められています。しかし、フリースクールや家庭教育等によって学校教育をカバーしている場合には、義務教育は免除されています(出典:文部科学省)。

これに対して、日本においては、義務教育を学校以外で行うことは認められていません。ただし、正規学校に籍をおきつつ、フリースクールにおいて相談・指導を受けた日数を指導要録上出席扱いとすることができることとされています。日本が特徴的なのは、正規学校の指導要領という学校現場の裁量に、教育義務遂行の判定が委ねられている点です。

現在、日本の小中学生の不登校児童・生徒は、約10万人います(文部科学省調査)。それらの児童・生徒の義務教育遂行の可否が、学校の教育現場の裁量に委ねられていることになります。ただ、おそらく、督促に従わずに罰金刑が科される例は皆無ではないかと思われます。

建前上は厳格な義務教育のルールを立てながら、実態は、現場の裁量に委ねて非常に緩やかな運用をしている点に、日本の特徴が垣間見えます。このことが、不登校の状況にある親子を苦しめてしまう例が多いと考えます。実態は緩やかなルールなのに、仕組みだけは厳格になっているため、「従わなければならない」という社会的プレッシャーがかかることが多いと考えられるからです。しかも、実権は学校が握っているため、学校の言うことに逆らうことは出来ません。

「義務教育」は、英語では、Compulsory Education です。これは、教育を受けさせる「義務」というよりも、国家による「強制」教育というニュアンスの方が強いです。「強制」と言うと、言葉の語感は強いのですが、あくまで「制度」なので、容易に変更が可能という発想に結び付きやすい言葉づかいと言えます。

これに対して、「義務」教育と言われると、それに従わないことの「非難」は、国家ではなくて、自由意思によって義務に従わない親に向けられます。親としても、憲法に定められた義務である以上、それに従わなくてはいけないのは最初から決められている事であるという心持ちになります。

恐らく、「義務教育」は、Compulsory Education の訳語ですが、「強制教育」と訳すべきでした。そうしておけば、今の日本における多くの不登校児の閉塞感は和らいでいたのではないかと思います。いまさら、定着している「義務教育」の語を訳し直す意味は余りないかも知れませんが、少なくても、本来の用法を意識するようにすれば、この閉塞状況に風穴を開けられるのではないかと思います。