2009/4/20

聴くことの効用

「コーチング」という言葉が流行り始めて結構ときが経っていますが、最近、「聴くことの効用」について色々な分野で目にしました。今回のブログでは、「聴くことが求められる分野」と「聴くことの効用」について少し掘り下げて書いてみます。

■聴くことが求められる分野

聴くことが求められる分野を今回は3つ取り上げます。1つは、古くから言われているごくありふれた分野で、あと2つは最近知った分野です。

1つは、ビジネスパーソンに関わりが深い、職場での上司が部下に接する際に用いるものです。いわゆるコーチングと言われる分野です。

顧客である消費者の価値観が多様化する中、企業は、トップダウン型でつくりだした商品を押し付ける営業ではなくて、社員の主体的なアイディアに基づくボトムアップ型で生まれた商品を顧客に提案する営業が求められています。そのためには、社員1人1人の自律性を尊重するマネジメントが必要で、現場の管理職が部下の意見を「聴いて」経営に生かしていこうとする取り組みが必要とされます。

この「コーチング」は、管理職教育を受けた方は、大体どこかでかじったことがあるのではないかと思います。私が「聴くこと」の重要性について初めて触れたのは、この分野でした。

2つ目は、子供の教育についての分野です。『きちんと「自分の気持ちが言える子」に』という本で、子供の言葉に十分に耳を傾けることがとても大切だと触れられていました。 http://www.php.co.jp/manabica/detail.php?id=70033

たしかに、親は子供に対して衣食住を握る絶対的な立場にいますし、体力・知力ともに圧倒的に力があるので、自分の都合を子供に押し付けようと思えば簡単にできてしまいます。でも、一寸の虫にも五分の魂で、幼児でも2歳になれば、はっきりとノーの意思表示ができます。それを普段力づくで抑え込んでいると、子供の欲求不満が歪んだ形で爆発してしまいます。

色々な事情はあるのだと思いますが、たまに不自然な声で泣き叫んでいたり、変に落ち着きのない子を目にすると、普段からの親の接し方に疑問を持ってしまいます。誠に手前味噌ながら、我が家では妻が普段なるべく娘のやりたいようにやらせてくれているので、いざというときは聞き分けの良い娘になっています。「やりたいようにやらせる」中身を振り返ると、それは、とにかく「聴く」ことです。

3つ目は、いきなり話が大きくなるのですが、国際政治の分野です。最近、『宗教と国家』という本を読みました。 http://www.amazon.co.jp/dp/4569558062 恥ずかしながら全く知らなかったのですが、これまで、国際紛争解決には宗教家が大きな役割を果たしてきた事例があります。たとえば、アフリカのジンバブエ独立の際には、キリスト教の一派であるクエーカーが政府の要人間の会合を取り持ったりする重要な役割を果たしています。クエーカーが特徴的だったのは、対立する両当事者双方に公平にパイプを持つことができたことです。そのための重要なスキルが「聴く」ことだったと言います。はなから善悪判断の元に当事者に接してしまっては、最初から接することを拒否されてしまいます。とにかく、「まずは聴くこと」が、政治当事者の心を動かす上で重要だったそうです。

■「聴くこと」のアンチテーゼ

上述の3つの分野で言われているように「聴くこと」には、大きな効用があります。しかしながら、すべては、バランス論で考えなければなりません。常に、じっくり聴かなければならないか、というとそういう訳ではありません。

1つは、事の緊急性には対応できない、ということです。たとえば、火事が起こっていて即刻対応しなければいけないのに、報告に来た部下に対応方法をじっくり考えさせるような暇はありません。

2つ目は、対象者の状況による、ということです。機械的な作業をこなすことだけが求められている日雇いのアルバイトには、具体的な作業内容を事細かに指示する方が適切です。

3つ目は、アサーションとの兼ね合いです。アサーションとは、「自己主張をしっかりと行う」スキルです。「聴いて」いるばかりで、聴いた通りにしか動けず自分の考えを全く持てない状況に陥ってしまっては本末転倒です。

ですので、「聴くことが重要」ということはその通りなのですが、あくまでも、「状況に応じて」という留保はつきます。

■それでも、「聴くこと」は重要と考えます

上述の留保点を割り引いても、私は、いまだなお、「聴くことは重要」と考えます。その理由は3つあります。

1つは、「聴くこと」は、あえて意識しないと、ないがしろにされやすい、ということです。私は、人と会話をしているとき、どうしても相手の言葉よりも自分の言いたいことに意識を集中してしまいます。そうした自分の意識を振り返ってみると、根源的に「自己主張したい」という欲求を持っているからではないかと思います。

意識しないで放っておくと、どうしても相手の言葉や立場を忘れがちになってしまうので、あえて「聴くこと」に集中してやっとバランスが取れます。テクニックとしては、相手にうなずく、相手の言葉をそのまま繰り返す、相手の言葉の内容をまとめる、の3つです。

2つ目は、「聴くこと」が本質的な問題解決に結びつきやすい、ということです。相手を遮って言葉をはさんでしまうと、得てして私の短絡的な思い込みがその場の対応策となってしまいがちです。そうした対応は、その場しのぎにはなっても、問題の根っこには到達できないケースが多いです。やはり、よく「聴く」ことが、相手の本音を引き出し、より本質的な問題解決に向かえることが多いです。

3つ目は、人を尊重するということの第一歩は、聴くことから始まるということです。人を尊重するとは、その人の「認めてもらいたい」という欲求を満足させることがその第一段階だと思います。そして、「認める」第一歩は、まず、「聴くこと」です。

元々、人事の分野で「聴くこと」の重要性は理解していたのですが、子育ての分野・国際政治の分野でも「聴くこと」の重要性が言われていることを知り、ますます、その重要性を認識しました。