2008/4/3
推薦図書「就業規則モデル条文」
会社の就業規則をつくり、または改定する実務に携わっている方にお薦めの本です。会社を起業して人を雇うに当たって手っ取り早く就業規則マニュアルが欲しい方にでも使えるし、人事部で就業規則改定を長いこと経験して来られたベテランの方の利用にも十二分に耐えうる中身を持っています。私は、これまで8年間にわたって数十社の就業規則についてアドバイスしてきました。その間、色んなマニュアル本を見て来ましたが、これほど実務に最適と思える本に出会ったのは初めてです。その割に、アマゾンでもコメントされていないような状況ですので、ここで紹介する次第です。
ちなみに、正式名称は次のとおりです。
中山慈夫「就業規則モデル条文」(日本経団連出版 2007年12月)
http://www.amazon.co.jp/dp/4818527041
この本が実務に最適と述べた理由は、次の3点に集約されます。 ①労務トラブルのあらゆる場面が想定されている ②モデル条文がまとめて掲載されている ③モデル条文の根拠が正確に記載されている
■労務トラブルのあらゆる場面が想定されている
何といっても、これが一番大きなお薦めの理由です。
今の時代、就業規則のモデルそのものは、色んなサイトから無料でダウンロードできます。それを多少アレンジすればいいや~・・・と思いきや、中々そうは問屋が下ろさないのです。
サイトでは、一般に当てはまるようなケースを総花的に提供しているケースが多いんですね。大体、無料のものは、社会保険労務士事務所などが提供していて、中身をもっと知りたいな・・・と思って相談しに来ることを見込んでいるケースがあるかと思います。
また、書籍も、業務の中の1つのパーツとして「就業規則」を取り扱っている社会保険労務士が書いておられたりします。そうすると、あらゆる場面を想定した内容になってないものがほとんどです。
たとえば、入社して一定の期間は、通常、「試用期間」が設けられます。なぜこんなことをするかというと、解雇したい場合、判例上、試用期間中の場合は、それ以後の場合に較べて若干容易にできるからです。企業としては、採用した社員が会社に適合しないリスクをなるべく回避したいと考えるんですね。
以前、私のクライアントの社長が、ちょうど試用期間の期限切れを目前に控えた社員を前にして、採用の可否を真剣に悩んでおられたことがありました。こんなとき、悩みを緩和してくれる仕掛けがあります。それが「試用期間の延長」です。もう少し様子を見た上で本当に採用するかどうか決めよう!ということです。この定めがないと、オール・オア・ナッシングの決断に追い込まれてしまうのです。
この「試用期間の延長」についてきちんと掲載されている「就業規則モデル」は少ないです。しかも、延長期間の合理的な長さについても、実務感覚から見て妥当な線が示されています。
試用期間の他にも、意外と落とし穴になりがちな休職規定についても、トラブルにならないように細心の注意が払われています。休職は、社員が全く労務提供できなくても解雇できない状態が続く仕組みで、意外にリスキーな仕組みなのです。でも、結構、いい加減な規定になっていて、コトが起きてから困る例をよく見てきました。
試用期間、休職規定に限らず、全般にトラブル回避の目配りがよくなされています。
■モデル条文がまとめて掲載されている
各章の末尾に、モデル条文がまとめて掲載されています。ですから、理屈よりも即使うことを優先される方は、その部分だけを写し取れば、そのまま就業規則に仕立て上げることができます。
学者の書いた労働法関連書籍ですと、理屈は正しいのですが、実務にそのまま使える個所がなかったりします。この本ではそういうことはないんですね。
また、目次もかなり詳しく書かれていて引きやすいです。さらに、巻末にはキーワード索引と判例索引も記載されていて、親切です。
■モデル条文の根拠が正確に記載されている
これも、他の書籍では、往々にして見落とされがちな点です。
「お、これ分かりやすい!」見開きの図解になっていたりするのに釣られて購入すると、参照根拠(法律、通達、判例など)が薄弱だったりするんですね。そうすると、書いてあることは、たしかに「その本を書いた著者の主張」ではあるかも知れませんが、自信を持って主張できません。対処すべき問題は、社員の会社生活そのものであったり給与にかかわるものであったりするわけですから、生半可な状態で知識を振り回す訳にはいきません。「この本に書いてあるから・・・」では、通りませんよね。
その点、この本では、法律・通達・判例などの根拠が明確に示されています。筆者の経歴も、弁護士実務を経験された後、司法研修所教官をしておられ、信頼できます。
・・・色々書いてきましたが、このブログの読者の方に「就業規則」は、必ずしも縁はないかも知れません。でも、あまりにも素晴らしい出来の本でしたので、思わず紹介してしまいました。何か「就業規則」と関わることが出て来たときは、ぜひ、お薦めしたい本です。
こういう力作が、もっともっと認められるようになって来れば、日本のビジネス・パーソンの知恵も向上してくるようになると思います。